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じごくふうけい
地獄風景
江戸川 乱歩
「江戸川乱歩全集付録冊子 探偵趣味」平凡社、1931(昭和6)年5月10日~7月10日、9月10日~1932(昭和7)年1月8日、3月10日<br>メリー・ゴー・ラウンド以下「江戸川乱歩全集 第十一巻」平凡社、1932(昭和7)年4月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 53,774 字 · 108 页
一つ一つのガラス窓を、丹念に覗き始めたからだ。
治良右衛門と木島刑事とは、肩を並べて、一つの大きなガラス張りの前に立っていた。
そこは魚類ではなくて、異形な海草ばかりを集めた水槽であったから、ガラス窓一面、魔女の乱れ髪が逆立って、泥沼の様な陰影を作っている為、いくら電燈があっても、見通しが利かず、疑えば最も疑うべき場所であった。
「ここには、大きな魚でもいるのですか」
刑事が不思議相に尋ねた。
「イイエ、ここは海草ばかりです。魚なんて一匹もいない筈です」
この答えが、刑事を飛上らんばかりに驚かせた。
「でも、君、あのゆれ方は、あの菎布の葉のゆれ方は」
見ていると、海草のヌルヌルした青黒い密林が、おどろおどろと乱れゆらいで、白い五瓣の花が、ポッカリと咲き出でた。生白い五つの花瓣はひとでの様に物欲しそうに、キューッキューッと海水を締め掴んだ。
「手だ、君、人間の手だ!」
それは明かに、人間の五本の指であった。しかも断末魔にもがき苦しむ指であった。
指にかき拡げられた海草のうしろから、ニョイと、大きな口が現われた。口ばかりの大きな畸形児の顔が。彼は空ろな目を一杯に見開いて、口からは滝津瀬と真赤な絵の具を吹き出しながら、水の中で何かわめいていた。