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いかなるほしのもとに

如何なる星の下に

高見 順

「文藝」1939(昭和14)年1月号~1940(昭和15)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,508 字 · 236 页

青空文庫

「鰯を食おうとしている男」と言った朝野を私は憎んだが、雅子に会わせてもらうためには、やはり朝野に頼らねばならなかった。楽屋へ私は、ひとりで行けたりはしない。

朝野は、千束町の小さな雑貨屋の二階に間借りしていた。

「朝野君、いますか」

すがめのおかみさんに言うと、

「いますよ」お客さんでなかった腹立ちからか、突慳貪な声だ。それなり知らん顔をしているのに、

「――いますか」

呼んでくれと言うかわりにとんまな声で言うと「――裏へ回って、上ったらいいでしょう」

何かいやな臭いのする路地を通って、台所口へ回り、外さなければ開かないような建付の悪いガラス戸を開けると、朝野のらしい摩り切れた下駄がそこにあった。その真黒な下駄の上に、表のおかみさんのらしい、ぐるぐると巻いた赤っちゃけた抜け毛が乗っかっていた。

「――朝野君」

暗い階段の下から声をかけると、

「――おお」

何かあわててひっくりかえすような音がして、朝野がヌッと顔を出した。暗いせいか、眼が猫のように気味悪く光っていた。

「やあ、朝野君」階段を上ろうとすると、

「出ましょう。――ちょっと待って」

私の上るのを防ぐような、ひどく狼狽した手付だった。