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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
お客と二階へあがってさ、お客だけがおりて来て帰っちゃって、お夏ちゃんはかんばんまでおりて来ないでしょう、そいだもんだから彼氏がいってみたら、お夏ちゃんは首を絞められて死んでたじゃないの、だからあたいがさぞ苦しかったろうねって云ったら、まあ子が首をくくるよりも身投げのほうが千倍も苦しいって云うし、リリイはそうじゃない鉄道自殺のほうがよっぽど苦しいらしいって、あらいやだ、いつか新聞に青線女給殺さるって出てたじゃないのっ、ときた」
「まあいい、その話はそっとしとけ、ってあっしは云った」徳さんはなにかを押えるような手まねをした、「おれが云ってるのはお夏ちゃんのことじゃあねえ、こういう場合に限ってなぜそんなことを考えだすんだってこった、ほかに幾らも考えだす暇はあるだろう、どうしてこうやってるときに限ってよけえなことを考えだすんだ、こっちだって感情害しちゃうじゃねえか、どういうわけだって云ってやった、そうでしょう、たんばさん、――おめえ」と彼は急に驚いたような眼で老人を見た、「おめえ競馬を知らねえのかい」
「競馬、――いや、知らないね」
「それじゃあホームストレッチなんてっても、そうだ、そのホームストレッチなんだ」