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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「なんでまたそんな妙なことをしたんだ」
「猫のやつが不用心だからです」
「猫って、――あの近みちをするというやつか」
「なにしろはだしでずかずか通りぬけてゆくんですから、うちの中がよごれちゃってしようがないんです」
先生はモーニングをぬいで、袷と羽折に着替えながら、鼻をひくひくさせた。
「なにかへんな匂いがするな」と先生は云った、「誰か来ていたのかな」
「人間がですか、いいえ」八田青年は首を振った、「先生のお留守に人をあげたりなんかしやあしません、それにぼくにはそんな者はいやあしません、お茶を淹れますか」
先生はなお鼻をひくひくさせたり、首をかしげたりしていた。そうしてまた、それから幾らもたたない或る夜中、先生は誰かの唸り声と、おら、も、わがねわがね、というのを夢うつつに聞き、ああまた夢をみているんだなと思い、朝起きてから考えてみてやっぱり夢だったのだと合点した。
世間の不景気はひどくなり、事業界のゆき詰りとか中小企業者の倒産とかいう噂が、しきりに人から人へと語り伝えられた。これは日本では流行性感冒のようなもので、或る不定の期間をおいて襲来し、当局は慌ててそのときしのぎの対策をたて、中小企業者、低賃銀所得者などの犠牲によって景気の恢復を計るが、根本的な治療法を考えないから、ひとおさまりしたと思うとまたやって来る、