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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
学校の先生が、自分のことは自分でしろと云った、などと云い返せば、学校の先生までが嘲笑の的にされるからだ。
「あたしゃただの躯じゃないんだからね」とみさおは主張する、「あたしのおかずはべつにするよ」
たとえこまぎれ肉にしろ鮪のあらにしろ、みさおだけは一と皿べつにおかずをつける。つまり妊娠ちゅうだから、それだけ栄養をとらなければならないのだという。ほかの者は見もしないが、末っ子の梅子はまだ五歳だから、肉を煮たときなどは匂いがするし、どうしてもそっちへ眼がいってしまう。するとみさおが敵を見るような眼で睨みつける。
「なんだいその眼つきは」とみさおはどなる、「かあちゃんはただの躯じゃないんだって云ってるだろう、二人分は喰べなきゃ身がもたないって、――世間へいって聞いてみな、沢上さんとこのおかみさんはよくあれで辛抱してるもんだって、そ云ってるから」
「こんな臭いこまぎれ肉でさえおちおち喰べられやしない」と泣き喚くこともある、「そんなに喰べたきゃおまえ喰べな、かあちゃんなんか妊娠脚気で死んじゃったっていいんだろう、さあ喰べなったら喰べなよ」
そしてきいきい声で泣き、皿の物をお梅の顔へぶちまけたりするのだ。