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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
の他の住人たちと同様、すべてがあいまいでつかみどころがない。ここでは常に現在があるだけで、過去のことは関知されないのが通例であり、たまたま語られる過去の話は、九割まで粉飾され、誇大に歪められるのが常識のようになっていた。
興味ふかいのは、こういう誇張された話になると、語り手は自分で嘘と知りながら昂奮し、それがもし哀話であれば、その哀れさに自分で涙をこぼした。聞いているほうも、ああこれは作り話だなと思いながら、それでもなお身につまされて、もらい泣きをするというのが珍しくないことだ。但し、これが虚栄心に関連した問題になるとまったく事情が変る。明らかに嘘とわかっていても、必ず反感をかい、こっぴどい悪口を云われるし、実際にむかし金持であったり、現にそれをみせつけたりすれば、それこそ仇がたきのようにそしられるのであった。
かなえは後者の例に属するだろう、豪華に着飾り、香料の匂いを百メートル平方にまでふりまきながら、鼻たかだかとやって来、鼻たかだかと帰ってゆく。人垣をつくって見迎え見送る住民たちには眼もくれず、もちろん挨拶するなどということもない。にもかかわらず、かなえの評判はここでは悪くなかった。