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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「四月にしちゃ冷えるな」有力者は誰にともなくそう呟いた、「このぶんじゃあ花もおくれるこったろう」
小田滝三は有力者のようすに驚き、島さんの顔色をうかがった。島さんは気楽そうに、明るく笑いながら有力者にあいづちをうち、有力者は急に話を変えた。
「旦那はこれを幾らでお売んなさるつもりかね」
「高いほどいいね、僕は」島さんはにやっとした、「これはみんないわくのある品なんだ、手放すのは惜しいんだ、ほんとに、そこのその釜なんぞは特にね」
そして各品について、それぞれの伝来や由緒や、秘話などを詳しく語りだし、まるでお家騒動の芝居ばなしのような雰囲気が展開したため、小田滝三は魅入られるような気分になったが、有力者はタバコをふかしながら、依然として四月にしては冷えすぎる、とでも云いたげな顔をしていた。
「そういう話は話として」と有力者はやがて云った、「旦那はいったいどのくらいなら、これをお払いになる目算ですか」
島さんが金額を云うと、有力者は首を振った。
「だめですな」有力者はタバコを灰皿で揉み消しながら云った、「とても相談にならない、桁がちがいます、私もだてにこんなしょうばいをしているんじゃあねえんですから、おい滝さん、失礼しよう」