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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「塩鮭持ってないの、ときた」彼は籠を背負いあげながら口まねをした、「あんた、しおじゃけ持ってなーい、へっ、ここいらの山の手人種ときたら、へっ、あれで日本人かね」

「こっちは川魚を売りに来た」市電に乗ってからも、黙視しがたい不正に怒りを抑えかねた、といわんばかりな口ぶりで彼はつぶやいた、「だからちゃんと説明したじゃないか、これが鮒、こっちが鯉って、すると、あの女のすっとぼけが、まあきれい、ほんとにきれい、うろこが金色だわ、なんて、さんざっぱらとぼけたことをぬかしたあげくが、あんた塩、――」

土川春彦は宙をにらんだ。

その夜ちょろは、夕めしのあとで壮烈にしゃべった。例によって面白くも可笑しくもないことを、独りで上きげんにまくしたて、独りで膝をたたいたり、ひっくり返って笑ったりした。七代目かぼちゃであるところのばんくんは臆しもせずめげもせず、ま正面からその攻撃を受け止め、半歩も後退したり脇へよけたりしなかった。

「屋敷町の道傍でね、一人の百姓がきみ鮒と鯉を売ってたんだ」とちょろは話した、「そこへね、しゃれた洋装のマダムが通りかかってね、それなーにとのぞきこんだ」