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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
――そして八十日ほど経った或る日、荒地のくぬぎ林のところで遊んでいた子たちが、一人の男に話しかけられて吃驚した。
「あ、ちょろさんだ」
と子供たちの一人が叫んだ。
それは土川春彦であった。新しいけれども躯に合わない背広に、ぺらぺらの安っぽいソフトをかぶり、左の脇に革の折鞄を抱え、そして素足に下駄をはいていた。
「ぼくだよ」と彼は子供たちにあいそ笑いをし、追われでもしているように、おちつかない眼であたりを見やりながら云った、「――うちにいたばんくんはどうしたか知ってる?」
「知ってる」と子供の一人が答えた、「かぼちゃだろ」
「ああかぼちゃだ、どうしてる」
「どうもしないよ、まだもとの家にいるよ、なあ」
その子がなかまに同意を求めると、みんな頷いたり、いるさ、とか、もとのまんまだよ、などと云った。ちょろは一瞬どきっとし、またきょろきょろと、あたりに警戒の眼をはしらせた。
「もとのままだって」と彼はきき返した、「ずっと一人でいるのかね」
「おばさんといっしょだよ」
「おばさんだって」
「そうさ、知ってるだろ」と一人が答えた、「せんにちょろさんのとこにいた、ほら、あのおばさんだよ、ほらあの、怒ってばかりいる」