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がくもんのすすめ

学問のすすめ

福沢 諭吉

「学問のすすめ」1872(明治5)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 87,080 字 · 170 页

青空文庫

ゆえに商売に一大緊要なるは平日の帳合いを精密にして、棚卸しの期を誤らざるの一事なり。

他の人事もまたかくのごとし。人間生々の商売は十歳前後人心のできし時よりはじめたるものなれば、平生、智徳事業の帳合いを精密にして、勉めて損亡を引き受けざるように心がけざるべからず。「過ぐる十年の間には何を損し何を益したるや。現今はなんらの商売をなしてその繁盛の有様はいかなるや。今は何品を仕入れていずれの時いずれのところに売り捌くつもりなるや。年来心の店の取締りは行き届きて遊冶懶惰など名のる召使のために穴を明けられたることはなきや。来年も同様の商売にて慥かなる見込みあるべきや。もはや別に智徳を益すべき工夫もなきや」と、諸帳面を点検して棚卸しの総勘定をなすことあらば、過去現在、身の行状につき必ず不都合なることも多かるべし。その一、二を挙ぐれば、「貧は士の常、尽忠報国」などとて、みだりに百姓の米を食い潰して得意の色をなし、今日に至りて事実に困る者は、舶来の小銃あるを知らずして刀剣を仕入れ、一時の利を得て、残品に後悔するがごとし。和漢の古書のみを研究して西洋日新の学を顧みず、古を信じて疑わざりし者は、過ぎたる夏の景気を忘れずして冬の差入りに蚊帷を買い込むがごとし。