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がくもんのすすめ

学問のすすめ

福沢 諭吉

「学問のすすめ」1872(明治5)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 87,080 字 · 170 页

青空文庫

罪人を罰するは政府に限りたる権なり、私の職分にあらず。ゆえに私の力にてすでにこの強盗を取り押え、わが手に入りしうえは、平人の身としてこれを殺しこれを打擲すべからざるはもちろん、指一本を賊の身に加うることをも許さず、ただ政府に告げて政府の裁判を待つのみ。もしも賊を取り押えしうえにて、怒りに乗じてこれを殺し、これを打擲することあれば、その罪は無罪の人を殺し、無罪の人を打擲するに異ならず。譬えば某国の律に、「金十円を盗む者はその刑、笞一百、また足をもって人の面を蹴る者もその刑、笞一百」とあり。しかるにここに盗賊ありて、人の家に入り金十円を盗み得て出でんとするとき、主人に取り押えられ、すでに縛られしうえにて、その主人なおも怒りに乗じ足をもって賊の面を蹴ることあらん、しかるときその国の律をもってこれを論ずれば、賊は金十円を盗みし罪にて一百の笞を被り、主人もまた平人の身をもって私に賊の罪を裁決し足をもってその面を蹴りたる罪により笞うたるること一百なるべし。国法の厳なることかくのごとし。人々恐れざるべからず。

右の理をもって考うれば敵討ちのよろしからざることも合点すべし。