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あんごしんにほんふどき

安吾新日本風土記

坂口 安吾

03 第二回 富山の薬と越後の毒消し≪富山県・新潟県の巻≫

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,916 字 · 46 页

青空文庫

つまりそういうことに意を用いる必要のない一生をすごしてきた落着きがひしひしと感じられるのである。

むろん他の村でなら堂々たる邸宅であるが、この村ではさしたる邸宅ではない。私は役場で、毒消し組合の組合長から聞いた言葉を思いだした。この村もちかごろゼイタクになってよほどの貧乏者でないと薪をたかないというのだ。みなみなイロリに炭をカッカとついでいるという。してみると、薪をたいているここの主人は、いまでは村では貧乏人の方なのかも知れない。組合長の話でも、毒消しの製造者が一番割が合わない商売だと云っていた。しかしこの主人は万事につけて態度にこだわりなく悠々たるものである。ただもう世俗の雑念をはなれたていである。

「このずッと奥に角海という部落があります。角田山と弥彦山の真裏に当る海岸で、そこへ行くには今でも道らしい道がない。木の根によじながら山をこえて行くようなところです。その部落に称名寺という寺があって、この寺が毒消しを造りはじめた元祖です。もとは角海の部落の者が毒消しを売ってたのですが、いまは角海の者はやらなくなって、角田の者だけが売りにでるのですね。そうさなア、今でも道のないような山の底の海岸だが、あそこには畑すら在りようがないのだし、角海の部落は昔は何をしていたのだろうね。