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あんごしんにほんふどき

安吾新日本風土記

坂口 安吾

03 第二回 富山の薬と越後の毒消し≪富山県・新潟県の巻≫

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,916 字 · 46 页

青空文庫

大昔は海賊部落じゃなかろうかねえ」

主人は茶をついでくれながら静かに呟く。問わず語りである。私も全然浮世ばなれた気持になるばかりである。主人の問わず語りは静かにつづく。

「私のうちが庄屋をしていたものだから、ま、称名寺の檀家総代というわけで、毒消しの製法を教えてもらって、それで毒消しをつくるようになったらしいが、その称名寺はいまは角海にはありません。巻へ引越しております。この寺も二三年前まで毒消しをつくっていたが、いまはやめてるようです。だんだん毒消しをつくる者が少くなりますね。毒消しの歴史については伝説めいたものがあるばかりで、はッきりしたことは私は知りません」

超越した言葉である。その彼の口から、角海の部落はもとは海賊じゃアなかろうかねえ、ときたものだから、私も妖しい気持になって鳥ならば角海へ行きたいとひたすらに思った。同行の記者も同じ思いらしく、

「角海へ行ってみましょう」

と、すでに立ち上りかけたが、主人は静かに制して、

「とても、とても。いまでも道らしい道がないのです。ま、舟で行くより仕方がないが、冬の海ではそれもできません」

道らしい道がないということについては、私にも一ツ思い当る記憶があった。