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あんごしんにほんふどき

安吾新日本風土記

坂口 安吾

03 第二回 富山の薬と越後の毒消し≪富山県・新潟県の巻≫

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,916 字 · 46 页

青空文庫

しかし反魂丹の由来は、富山の家元松井家が宝暦九年に奉行所へ差上げた由緒書によると、富山本来のものではない。もとは備前岡山の医師浄閑が所持した薬だ。これを富山の者が製法の伝授をうけて帰国し、やがて殿様が愛用するようになって繁昌したに反し、本家本元岡山の方では亡びたという。

また一説では、泉州堺万代村の浄閑が岡山に移りすんで医を業として反魂丹を造り、のち子孫が富山へ移住して代々反魂丹を製造して今日に至ったという。とにかく富山の薬の製法はもと岡山であることには変りがない。もとより魂かえす反魂丹は落語のように幽霊を現す反魂丹の意味ではない。イノチをかえす反魂丹。このまま失われるには惜しい名称である。私が広貫堂でもらった記念の薬包みの一番底に反魂丹がはいっていた。奉書包みのようなちょッと物々しい包みでさすがに外形は歴史的な威風を示していたが、いまどきこういう骨董的な薬は、旅行者が富山ミヤゲに買ってく以外には注文がないそうで、熊の胆、赤玉も忘れられつつあるらしい。目下女工の流し作業で盛大に製産されているのはペニシリン軟膏とかサロメチールまがいの薬であり、高貴薬では六神丸以上にB12である。