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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

それを炮烙で炒ってお八つの代わりに食ったりした。それは百合のような鱗片から成った球根ではあったが、大きさや格好は今度のと似たものであった。彼はその時分の事をいろいろ思い出していた。焦げた百合の香ばしいにおいや味も思い出したが、それよりもそれを炒ってくれた宿の人々の顔やまたそれに付きまとうた淡いロマンスなどもかなりにはっきりと思い出された。その時分の彼はたとえ少々の病気ぐらいにかかっても、前途の明るい希望を胸いっぱいにいだいていただけに悲観もしなければ別にあせりもしなかった。そして一年間の田舎の生活をむしろ貪欲に享楽していた。それが今、中年を過ぎた生涯の午後に、いつなおるかわからない頑固な胃病に苦しんでいる彼の心持ちは、だいぶちがったものであった……のみならず今度の病気は彼の外出を禁じてしまったので前の病気の時のように、自由に戸外の空気に触れて心を紛らす事ができない。使えば使われそうに思われるからだを、なるべく動かさないようにしていなければならないのが苦痛であった。それでもはたで見るほど退屈はしていなかった。彼の読書欲は病気になって以来いっそう増進して、ほとんど毎日朝起きるとから夜寝るまで何かしら読んでいた。