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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
そんなに本ばかり読んでいては病気にさわりはしないかと言って、細君や老母が心配して注意する事もあったが、彼自身にはそんな心配はないと言いはっていた。実際彼の頭脳は病気以来次第にさえて来て、終日読書していても少しも疲れないのみならず、自分でも不思議に思うほど鋭く働いていた。何か読んでもそこに書いてある事の裏の裏まで見通されるような気がしていた。読んで行く一行一行に、あらゆる暗示が伏兵のように隠れていて、それが読むに従って、飛び出して襲いかかるのであった。それらの暗示のどれでも追求して行くとほとんど無限な思索の連鎖をたぐり寄せる事ができた。そしてそれらの考えがほとんど天啓ででもあるように強く明らかに、無条件に真であって、しかもいずれもが新しい卓見ででもあるように彼には思われた。新聞の三面記事を読んでいる時でさえ時々電光のひらめくようにそのような考えが浮かんだりした。そんな時には手帳の端へ暗号のような言葉でその考えの端緒を書き止めたりしていた。しかしそのような状態はいつまでも持続するわけではなくて、これと反対な倦怠の状態も週期的に循環して来た。そういう時には何を読んでも空虚であった。