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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
そしてその壁の中にこもって、ただひとり落ち着いて書物の中の世界を見歩き、空想の殿堂を建ててはこわし、こわしてはまた建てている時にいちばん幸福を感じるようになって来た。彼は時々そのような生活の価値を疑ってみない事はなかったが、しかしどうにもならないと思っていた。この隔壁は自分で作ったものでもなければだれかが持って来たものでもなかった。そうしてひとりでにできたこの壁を打ち破るという事ができるとしても、その努力は今の健康が許さないと思っていた。そう思ってむしろ安心しているそばで、またこうしてはならないという不安の念が絶えず襲いかかって来た。利己的であると同時に気の弱い彼は、少なくも人目にはたいした事ではないと思われるらしい病気のために職務を怠っている事に対する人の非難を気にしていた。それで時々彼を見舞いに来る友人らがなんの気なしに話す世間話などの中から皮肉な風刺を拾い上げ読み取ろうとする病的な感受性が非常に鋭敏になっていた。たとえば彼と同病にかかっていながら盛んに活動している先輩のうわさなどが出ると、それが彼に対する直接の非難のように受け取られた。そうした夜は夜ふけるまでその話を分析したり総合したりして、最後に、その先輩と自分との境遇の相違という立場から、二人のめいめいの病気に対する処置をいずれも至当なものとして