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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
そこに書いてある表面の意味をとらえる事すら困難であった。そうした時に手帳をあけて自分の書いてある暗号のようなものを見ると、ほとんどなんの意味をも成さない囈語でなければ、きわめて月並みないやみな感想に過ぎなかった。どうしてこんなつまらない考えがあれほどに自分を興奮させたか不思議に思われるのであった。それでひょっとすると自分は一種の誇大妄想狂に襲われているのではないかと思って不安を感じる事もあった。そういう時の彼はみじめな状態にあった。世界を埋め尽くした泥の底に自分がうごめいているような気がしていた。しかし再び興奮の発作が来ると彼の頭は霊妙な光で満ち渡ると同時に、眼界をおおっていた灰色の霧が一度に晴れ渡って、万象が透き通って見えるのである。
このように週期的に交代する二つの世界のいずれがほんとうであるかを決定したいと思って迷っていた。――おそらく彼は生涯このわかりきったようで、しかも永久に解く事のできないなぞを墓の中まで持ち込むかもしれなかった。
彼の生活が次第次第に実世間と離れて行くのを自分でも感じていた。彼と世間を隔てている透明な隔壁が次第に厚くなるのを感じていた。