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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

たぶん自分が二年ばかり東京にいなかった間の事であろうと思う。元の薄暗い窮屈な室に比べて、天井の高い窓の多い今の二階の室は比較にならないほど明るく気持ちがいい。しかし自分にはどういうものか昔の陰気なほうが、少なくも自分の頭に巣くっている「丸善」という観念にはふさわしい。今の室はあまりに明るくあまりに楽に広々としているためにそこに陳列された書物が普通のデパートメントストアの商品のような感じがしないでもない。これに反して以前の窮屈な室へはいった時には、なんとなく学者の私有文庫を見せてもらうような気がした。これは、ある友人が評したように、つまり自分の頭が旧式であって、書物とその内容を普通の商品と同様に見なしうるほどに現代化し得ないためかもしれない。

いろいろの理由からいわゆる散歩という事に興味を持たない自分の日曜日の生活はほとんど型にはまったように単調なものである。昼飯をすませて少し休息すると、わずかばかりの紙幣を財布に入れて出かける。三田行きの電車を大手町で乗り換えたり、あるいはそこから歩いたりして日本橋の四つ角まで行く。白木屋に絵の展覧会でもあるとはいって見る事もあるが、大概はすぐに丸善へ行く。