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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

別にどういう本を買うあてがあるわけではないが、ただ何かしら久しぶりで仲のいい友だちを尋ねて行く時のような漠然とした期待をいだいて正面の扉を押しあける。

正面をはいった右側に西洋小間物を売る区画があるが自分はついぞここをのぞいて見た事がない。どういうものか自分はここだけ、よその商人が店借りして入り込んでいる気がする。どうしてこの洋品部が丸善に寄生あるいは共生しているかという疑問を出した時にP君はこんな事を言った。「書物は精神の外套であり、ネクタイでありブラシであり歯みがきではないか、ある人には猿股でありステッキではないか。」こう言われてみればそうであるが、自分はただなんとなくここをのぞく気にならないでいつでもすぐに正面の階段を登って行く、そして二階の床に両足をおろすと同時に軽い息切れと興奮を感じるのである。

階段を上って右側に帳場がある。ある人はこれを官衙の門衛のようだと言ったが、自分もどちらかと言えば多少そんな気がしないでもない。これは建築者の設計の中に神経過敏な顧客の心理という因子を勘定に入れなかったためであろう。

自分はいつでもこの帳場の前を通ってまずドイツ書のある所へ行く。