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やねうらのさんぽしゃ

屋根裏の散歩者

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年8月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,862 字 · 57 页

青空文庫

なくて、ただ殺人行為そのものの興味にあったのです。先からお話して来た通り、三郎の精神状態は非常に変態的で、犯罪嗜好癖ともいうべき病気を持ってい、その犯罪の中でも彼が最も魅力を感じたのは殺人罪なのですから、こうした考えの起るのも決して偶然ではないのです。ただ今までは、仮令屡々殺意を生ずることがあっても、罪の発覚を恐れて、一度も実行しようなどと思ったことがないばかりなのです。

ところが、今遠藤の場合は、全然疑を受けないで、発覚の憂なしに、殺人が行われ相に思われます。我身に危険さえなければ、仮令相手が見ず知らずの人間であろうと、三郎はそんなことを顧慮するのではありません。寧ろ、その殺人行為が、残虐であればある程、彼の異常な慾望は、一層満足させられるのでした。それでは、何故遠藤に限って、殺人罪が発覚しない――少くとも三郎がそう信じていたか――といいますと、それには、次の様な事情があったのです。

東栄館へ引越して四五日たった時分でした。三郎は懇意になったばかりの、ある同宿者と、近所のカフェへ出掛けたことがあります。その時同じカフェに遠藤も来ていて、三人が一つテーブルへ寄って酒を――尤も酒の嫌いな三郎はコーヒーでしたけれど――飲んだりして、三人とも大分いい心持になって、連立って下宿へ帰ったのですが、少しの酒に酔っぱらっ