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やねうらのさんぽしゃ

屋根裏の散歩者

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年8月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,862 字 · 57 页

青空文庫

天井から毒薬を垂らしたのではないかなどと、そんな馬鹿馬鹿しい疑いを起すものは、誰もありませんでした。

それでも、何だかまだ安心しきれない様な気がして、三郎はその日一日、ビクビクものでいましたが、やがて一日二日とたつに随って、彼は段々落ちついて来たばかりか、はては、自分の手際を得意がる余裕さえ生じました。

「どんなものだ。流石は俺だな。見ろ、誰一人ここに、同じ下宿屋の一間に、恐ろしい殺人犯人がいることを気附かないではないか」

彼は、この調子では、世間にどれ位隠れた処罰されない犯罪があるか、知れたものではないと思うのでした。「天網恢々疎にして漏さず」なんて、あれはきっと昔からの為政者達の宣伝に過ぎないので、或は人民共の迷信に過ぎないので、その実は、巧妙にやりさえすれば、どんな犯罪だって、永久に現れないで済んで行くのだ。彼はそんな風にも考えるのでした。尤も、流石に夜などは、遠藤の死顔が目先にちらつく様な気がして、何となく気味が悪く、その夜以来、彼は例の「屋根裏の散歩」も中止している始末でしたが、それはただ、心の中の問題で、やがては忘れて了うことです。実際、罪が発覚さえせねば、もうそれで十分ではありませんか。