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やねうらのさんぽしゃ
屋根裏の散歩者
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年8月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,862 字 · 57 页
「これは目覚し時計ですね」
「そうですよ」北村は多弁に答えるのです。「遠藤の自慢の品です。あれは几帳面な男でしてね、朝の六時に鳴る様に、毎晩欠かさずこれを捲いて置くのです。私なんかいつも、隣の部屋のベルの音で目を覚していた位です。遠藤の死んだ日だってそうですよ。あの朝もやっぱりこれが鳴っていましたので、まさかあんなことが起っていようとは、想像もしなかったのですよ」
それを聞くと、明智は長く延ばした頭の毛を、指でモジャモジャ掻き廻しながら、何か非常に熱心な様子を示しました。
「その朝、目覚しが鳴ったことは間違いないでしょうね」
「エエ、それは間違いありません」
「あなたは、そのことを、警察の人に仰有いませんでしたか」
「イイエ、……でも、なぜそんなことをお聞きなさるのです」
「なぜって、妙じゃありませんか。その晩に自殺しようと決心した者が、明日の朝の目覚しを捲いて置くというのは」
「なる程、そう云えば変ですね」
北村は迂濶にも、今まで、この点に気附かないでいたらしいのです。そして、明智のいうことが、何を意味するかも、まだハッキリ飲み込めない様子でした、が、それも決して無理ではありません。