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にじ
彩虹
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,898 字 · 28 页
そして秋ぐちにかかる頃になって天気が崩れだし、まるで返り梅雨のように、陰鬱な曇天と雨の日ばかりが相次いで来た。……これでは不作はまぬかれまい、そういう不安が拡まりだしたとき、逸早く、今年は年貢半減だそうな、という噂が口から口へ伝わった。
「年貢も運上も一律に半減だそうな」
「半作しか穫れない郷村は年貢御免になるそうな」
たしかな筋から出たはなしだといって、その評判は領内の村々から城下町まで湧き立たせた。しかもそれに次いで、
「来年度から家中の士一統の扶持が表高どおりに復帰するそうだ」
という噂さえ立ち始めた。
当時はどこの藩でも、家臣の扶持は表高と実収とにかなりの差があった、是は食禄が米を単位にしているため、米価の高低に支配されるからで、平均している時でも実際の扶持は二割ないし三割は表高より少ないのが例になっていた。これに対して格式は表高に依ってちゃんと規矩があるため、家臣たちの生活はかなり窮屈なものだった。……従って「表高どおりに復帰する」ということは、噂だけにしても家中の人気を昂めるのに充分で、半信半疑ながらこれまた大きな反響をよびおこさずにはいなかった。