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にじ

彩虹

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,898 字 · 28 页

青空文庫

伊兵衛はさえの返辞を聞いて以来、なんとなく足が鈍って桃園へゆかぬ日が続いた。さえの返辞はすぐ宗之助に伝えたし、そのとき宗之助は例の「破顔」という感じで笑い、――ではすぐ正式に人を立てよう、そう云うのをたしかめたので、彼らが結婚するまではなんとなくさえに逢うことが憚られる気持もあったのである。

天候は八月の下旬からにわかに恢復し、申し分のない日なみが続いて、豊作はまちがいなしということになった。それにも拘わらず「年貢運上半減」という噂は消えなかった。そして九月にはいった一日、樫村の家へ年寄役四人が揃って訪ねて来た。

「重要な内談があって」

というので、奥の間の襖障子を明け放して対座した。

「先頃から世間を騒がせている評判をお聞きであろう」

と、いちばん年嵩の石岡頼母が口を切った。

「……年貢、運上半減、家中の扶持表高どおり復帰という、あの評判の出どころがわかったのです。ことに、豊作まちがいなしと定っている年貢が、やはり今年度から半減という噂は、噂だけでなくその実証があり、しかもそこに国老交替と微妙な関係があるという事実がわかったのです」

「はっきり云ってしまえば」