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にじ
彩虹
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,898 字 · 28 页
伊兵衛はあまりの変り方に暫らくは言葉も出ず、心うたれた者のようにさえの姿を見まもっていた。
「ずいぶん久しくお逢い申しませんけれど、どうかあそばしたのでございますか」
挨拶が済むとさえはそう云った。
「……御病気というお噂も聞かず、おいでもございませんので、何か御機嫌を損じたのではないかと母が心配しておりました、それでぶしつけですけれど、ちょっと御容子を伺いにあがりましたの」
「なにも理由はないさ、つい足が遠くなったというだけだよ」
「どうぞいらっしって下さいまし、母も家の者たちもお待ち申しておりますから」
「話というのはそのことか」
「はあ、……いいえ」
さえはそっと頭を振り、両の袂を膝の上に重ねながら俯向いた。そして伊兵衛が黙っているままに、じっとなにか思い耽っていたが、やがてふと顔をあげ、こちらを挑むような眼でもとめながら卒然と云った。
「半年まえ、貴方様はわたくしに、脇田さまへ嫁く気があるかとお訊ねなさいました、あれは、おたわむれだったのでございますか」
「たわむれ……」
伊兵衛は思いがけない言葉に眼を瞠った。
「どうしてそんなことを云うんだ、脇田との間になにかあったのか」