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にじ
彩虹
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,898 字 · 28 页
「わたくし、お受け申しますとお返辞を致しました」
「おれはその通り脇田へ伝えた」
「脇田さまはなんと仰せでしたの」
「すぐ正式に人を立てて縁組をすると云っていた」
「なんのお話もございませんわ、それらしいお人もみえず、そういうおとずれもございませんでした」
伊兵衛の脳裡に、その刹那ふと宗之助の逞しい顔が思いうかんだ。桃園の庭で自分を捻じ伏せながら、勝ち負けを執拗に追究した顔、それから忽然と変った不敵な笑い顔が、……その一種特別な笑い顔が、今なにかを伊兵衛の心に叩きつけるようだった。
「それは本当だな」
「それでわたくし、お伺い申しました」
「家へ帰っておいで」
伊兵衛は抱き緊めるような眼でさえを見た。
「……あとでゆく」
「脇田さまへおいでになりますのね」
「他にも用があるんだ」
「こんどは」
と、さえは燃えるような眼で伊兵衛を見た。
「……こんどは、お断わり申しても宜しゅうございますわね」
「いやそれは待って呉れ、おれが会って」
「いいえ」
さえは屹と頭を振った。
「……わたくしあれからずいぶんいろいろなことを考えました。そして半年のあいだ待っていましたのは、ただ脇田さまからの縁談だけでございませんでした、頼三郎さま」