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かげをふまれたおんな

影を踏まれた女

岡本 綺堂

「講談倶楽部」1925(大正14年)9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,608 字 · 23 页

青空文庫

」

「はあ。奥にいますよ。」と、母のお由は答えた。

「呼んでくれませんか。」と、要次郎は言った。

「おせきや。要ちゃんが来ましたよ。」

母に呼ばれて、おせきは奥から出て来た。今夜のおせきはいつもよりも綺麗に化粧しているのが、月のひかりの前にいっそう美しく見えた。

「月がいいから表へ拝みに出ませんか。」と、要次郎は誘った。

おそらく断わるかと思いのほか、おせきは素直に表へ出て来たので、両親も不思議に思った。要次郎もすこし案外に感じた。しかし彼はおせきを明かるい月の前にひき出して、その光りを恐れないような習慣を作らせようと決心して来たのであるから、それをちょうど幸いにして、ふたりは連れ立って歩き出した。両親もよろこんで出してやった。

若い男と女とは、金杉の方角にむかって歩いて行くと、冷たい秋の夜風がふたりの袂をそよそよと吹いた。月のひかりは昼のように明かるかった。

「おせきちゃん。こういう月夜の晩にあるくのは、いい心持だろう。」と、要次郎は言った。

おせきは黙っていた。

「いつかの晩も言った通り、つまらないことを気にするからいけない。それだから気が鬱いだり、からだが悪くなったりして、お父さんやおっ母さんも心配するようになるのだ。