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かげをふまれたおんな

影を踏まれた女

岡本 綺堂

「講談倶楽部」1925(大正14年)9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,608 字 · 23 页

青空文庫

襷をはずして、髪をかきあげて、おせきがとつかわと店を出たのは、昼の八つ(午後二時)を少し過ぎた頃であった。行くさきは大野屋という店で、ここも今日は煤掃きである。その最中にことし七十五になるおばあさんが突然ぶっ倒れたのであるから、その騒ぎはひと通りでなかった。奥には四畳半の離屋があるので、急病人をそこへ運び込んで介抱していると、幸いに病人は正気に戻った。きょうは取り分けて寒い日であるのに、達者にまかせて老人が早朝から若い者どもと一緒になって立ち働いた為に、こんな異変をひき起こしたのであるが、さのみ心配することはない。静かに寝かして置けば自然に癒ると、医者は言った。それでまずひと安心したところへ、おせきが駈けつけたのである。

「それでもまあようござんしたわねえ。」

おせきも安心したが、折角ここまで来た以上、すぐに帰ってしまうわけにもいかないので、病人の枕もとで看病の手伝いなどをしているうちに、師走のみじかい日はいつしか暮れてしまって、大野屋の店の煤掃きも片付いた。そばを食わされ、ゆう飯を食わされて、おせきは五つ少し前に、ここを出ることになった。

「お父さんやおっ母さんにもよろしく言ってください。