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かれがころしたか

彼が殺したか

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页

青空文庫

そして豊満な白い乳房のあたりから、真紅の血が流れて道子がうごめく度毎にどろどろとたれて来るのです。

其の床と並んで敷かれた床の上から半ばはい出して、机に頭をのせて俯伏に仆れて居る清三の姿が見られました。道子は殆ど死んだようになって居ましたが、清三は、断末魔の苦痛を味わって居るように見えました。

斯うやって申上げれば長いようですが、勿論仁兵衛や女中が見た刹那の感じは一秒にも足らぬ時なのです、否、お種が目をさましてから、此の光景を見るまででさえ、極めて短時間しかたたなかった事は云うまでもありません。

主人のその有様を見た仁兵衛は、いきなり主人の側にかけよって後から抱き起しました。見ると主人の着物は血だらけで、なお口から血を吐いて居たばかりでなく、右の胸からも血が一面に流れ出て居ました。

仁兵衛が助け起すと、主人は仁兵衛の顔をきっと見ながら、

「大寺……大寺……が」

と、最後の力を全身にこめて叫んだのでした。

すると此の叫声をきいたものか、今まで死んだようになって居た道子が、不意に呻り声を上げましたが、つづいて、

「一郎……」

と、はっきり一言云ったそうです。