轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
吉川英治『忘れ残りの記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れ残りの記、年譜。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,050 字 · 383 页
生来の空想癖にすぐ遊ぶせいか、ぼくはこういう場合も、道の遠さとか、人の辛さとか、そんな事は余り心にこたえない。この晩の長い帰り道も、何を考え考え歩いたろうか。腹も減っていたに違いないが、さっぱり悲痛な気持ちはなかったようだ。親戚の冷たさとか、世間の無理解に不平をなすりつけてみるとか、そういう卑屈感は、少しも心を傷ませていなかった。至極のん気に、夜靄のさまよいを愉しみつつ、夜明け近くまでに、ぶらんぶらん菊川町の工場へ帰りついた。そしてひと寝入りして、翌日は又、黙々と、ラセン釘削りの器械を廻していた。
あとで反省してみると、昨夜の事は、母へも悪い事をしたと思った。ぼくの家が、転々と、どん底からどん底へ落ちて行った多年の間も、引っ越し先を尋ねては、先方から訪うてくれるような人はひとり斎藤の伯父だけだった。しかも、その人に嫁いだ、ぼくの母の姉は、もう故人となって、後添えの夫人が家庭にいるのである。そんな事も思わず、母に黙って、斎藤家を頼って行ったのは、無分別というものに極っている。ぼくは母への手紙に「……もう行きません、何があっても頼りにはしません、斎藤家へ謝っておいて下さい」