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おもいだすことなど

思い出す事など

夏目 漱石

经历生死关头后,作者用细腻笔触回忆那段病中时光,那些细微的光影与人事,读来既心酸又温暖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,003 字 · 113 页

青空文庫

余の世界と接触する点は、ここに至ってただ肩と背中と細長く伸べた足の裏側に過ぎなくなった。――頭は無論枕に着いていた。

これほどに切りつめられた世界に住む事すら、昨夕は許されそうに見えなかったのにと、傍のものは心の中で余のために観じてくれたろう。何事も弁えぬ余にさえそれが憐れであった。ただ身の布団に触れる所のみがわが世界であるだけに、そうしてその触れる所が少しも変らないために、我と世界との関係は、非常に単純であった。全くスタチック(静)であった。したがって安全であった。綿を敷いた棺の中に長く寝て、われ棺を出でず、人棺を襲わざる亡者の気分は――もし亡者に気分が有り得るならば、――この時の余のそれと余りかけ隔ってはいなかったろう。

しばらくすると、頭が麻痺れ始めた。腰の骨が骨だけになって板の上に載せられているような気がした。足が重くなった。かくして社会的の危険から安全に保証された余一人の狭い天地にもまた相応の苦しみができた。そうしてその苦痛を逃れるべく余は一寸のほかにさえ出る能力を持たなかった。枕元にどんな人がどうして坐っているか、まるで気がつかなかった。