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おもいだすことなど

思い出す事など

夏目 漱石

经历生死关头后,作者用细腻笔触回忆那段病中时光,那些细微的光影与人事,读来既心酸又温暖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,003 字 · 113 页

青空文庫

十一

雨はますます降り続いた。余の病気はしだいに悪い方へ傾いて行った。その時、余は夜の十二時頃長距離電話をかけられて、硬い胸を抑えながら受信器を耳に着けた。茅ヶ崎の子供も無事、東京の家も無事という事だけが微かに分った。しかしその他は全く不得要領で、ほとんど風と話をするごとくに纏まらない雑音がぼうぼうと鼓膜に響くのみであった。第一かけた当人がわが妻であるという事さえ覚らずにこちらからあなたという敬語を何遍か繰返したくらい漠然した電話であった。東京の音信が雨と風と洪水の中に、悩んでいる余の眼に始めて暸然と映ったのは、坐る暇もないほど忙しい思いをした妻が、当時の事情をありのままに認めた巨細の手紙がようやく余の手に落ちた時の事であった。余はその手紙を見て自分の病を忘れるほど驚いた。

病んで夢む天の川より出水かな

十一

妻の手紙は全部の引用を許さぬほど長いものであった。冒頭に東洋城から余の病気の報知を受けた由と、それがため少からず心を悩ましている旨を記して、看病に行きたいにも汽車が不通で仕方がないから、せめて電話だけでもと思って、その日の中には通じかねるところを、無理な至急報にして貰って、夜半に山田の奥さんの所からかけたという説明が書いてあった。