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おもいだすことなど

思い出す事など

夏目 漱石

经历生死关头后,作者用细腻笔触回忆那段病中时光,那些细微的光影与人事,读来既心酸又温暖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,003 字 · 113 页

青空文庫

昔の計を繰り返す勇気のなかった余は、口中を潤すための氷を歯で噛み砕いては、正直に残らず吐き出した。その代り日に数回平野水を一口ずつ飲まして貰う事にした。平野水がくんくんと音を立てるような勢で、食道から胃へ落ちて行く時の心持は痛快であった。けれども咽喉を通り越すや否やすぐとまた飲みたくなった。余は夜半にしばしば看護婦から平野水を洋盃に注いで貰って、それをありがたそうに飲んだ当時をよく記憶している。

渇はしだいに歇んだ。そうして渇よりも恐ろしい餓じさが腹の中を荒して歩くようになった。余は寝ながら美くしい食膳を何通りとなく想像で拵らえて、それを眼の前に並べて楽んでいた。そればかりではない、同じ献立を何人前も調えておいて、多数の朋友にそれを想像で食わして喜こんだ。今考えると普通のものの嬉しがるような食物はちっともなかった。こう云う自分にすらあまりありがたくはない御膳ばかりを眼の前に浮べていたのである。

森成さんがもう葛湯も厭きたろうと云って、わざわざ東京から米を取り寄せて重湯を作ってくれた時は、重湯を生れて始めて啜る余には大いな期待があった。けれども一口飲んで始めてその不味いのに驚ろいた余は、それぎり重湯というものを近づけなかった。