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おそろしきつや

恐しき通夜

海野 十三

「新青年」1931(昭和6)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,092 字 · 30 页

青空文庫

さっき、大尉どのは、『戯れに恋はすまじ、戯れならずとも恋はすまじ』と、禅坊主か修道院生徒のような聖句を吐かれたが、僕は、どうかと思うね。それなら、ちょいと伺ってみたい一条がある、とでもねじ込みたい。大尉どのの、あの麗しい奥様のことなんだ。あんな見事な麗人をお持ちでいて、『恋はすまじ』は、すさまじいと思うネ。僕は詳しいことは一向知らないけれど、余程のロマンスでもないかぎり、大尉どのに、あの麗人がかしずく筈がないと思うんだ、いや、大尉どのは憤慨せられるかも知れないけれどね――。で僕に忌憚なく云わせると、大尉どのの結論は、本心の暴露ではなく、何かこう為めにせんとするところの仮面結論だと思うのだ。大尉どのの真意は何処にある? こいつは面白い問題だ――と、イヤにむきになって喰ってかかるような口を利くのも、実はこうしないと、これからの僕の下手な話が、睡魔を誘うことになりはしないかと、心配になるのでね。

そこで、僕に云わせると、失恋の極、命をなげだして、恋敵と無理心中をやった熊内中尉は、大馬鹿者だと思う。鰻の香を嗅いだに終った竹花中尉も、小馬鹿ぐらいのところさ。