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おそろしきつや

恐しき通夜

海野 十三

「新青年」1931(昭和6)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,092 字 · 30 页

青空文庫

美貌のせいもあるだろうが、二十を過ぎたとは見えぬうら若い女性だった。その、少女とでも云いたいような彼女が、私に受けたいというのは、実は人工流産だというんだ。一体、人工流産をさせるには、医学的に相当の理由が無くては、開業医といえどもウッカリ手を下せないのだ。母体が肺結核とか慢性腎臓炎であるとかで、胎児の成長や分娩やが、母体の生命を脅すような場合とか、母体が悪質の遺伝病を持っている場合とかに始めて人工流産をすることが、法律で許されてある。若しこれに反して、別段母体が危険に瀕してもいないのに、人工流産を施すと、その医者は無論のこと、患者も共ども、堕胎罪として、起訴されなければならない。

さて、その若い女の全身に亙って、精密な診断を施したところ、人工流産を施すべきや否やについて、非常に困難な判断が要ることが判った。それというのが、打ちみたところ、この女は立派に成熟していたが、すこし心神にやや過度の消耗があり、左肺尖に軽微ながら心配の種になるラッセル音が聴こえるのだ。この患者の体力消耗が一時的現象で、このまま回復するのだと、肺尖加答児も間もなく治癒するだろうから、折角始めて得た子宝のことでもあり、流産をさせないで其の儘、正規分娩にまで進ませていいのだ。