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じょうき

情鬼

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页

青空文庫

それはとにかく、小田切氏の結婚と同時に宮本夫人に、好感を持たなかったある一部の連中は、いい気味だ、絶世の美人も伯爵令嬢という肩書には美事背負投げを喰わされたではないか、と云って嘲笑した。しかしそんな噂も一時で、軈て二人の問題も口にする人がなくなり、後には宮本夫人の存在すら忘れられてしまった。

そういう記憶があるので、私は小田切大使の自殺と聞いて、直ぐ宮本夫人を聯想したわけなのである。

新聞には最初自殺とあった。それからまた一時他殺の疑いが濃厚となり、種々な臆測が伝えられて、世間を騒がしたが、結局自殺と確定された。

自殺に撰んだ日が亡き夫人の一周忌にあたり、しかも夫人の写真を懐に抱いていたというので、私は最初から自殺説を主張していたが、S夫人はそれに対して別段反対説を唱えるでもなく、といって私の意見に同意した様子もなかった。

「あすこは任地から云っても重要な処ですからね。小田切さんとしてはほんとに働き栄のする、腕のふるいどころでしょう。外交官としては面白い檜舞台。そこへ撰ばれてやられたんですから、あの人としては今が最も華やかな時代だと云っても差支ありますまい。