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じょうき

情鬼

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页

青空文庫

その得意な時に、ただ奥さんが恋しい位の理由で自殺するなんて、そんな馬鹿々々しいこと考えられないけれどね――」

「じゃ他殺だとお思いになりまして?」

S夫人とは違って私は直接小田切大使を知っていた。豪気な才物だが、また一面には情にもろい、涙のある優しい人だった。おまけに亡き夫人とは思い合った間柄だったとも云われるし、あの人だからこそ自殺したのだろうと私には思われるのだが――。

「他殺と断定するわけでは無論ないんだけど、しかし自殺とすれば何かそこにもっと深い原因があるわけでしょう。一時的発狂とも考えられないことはないけれど、小田切さんはそんな人じゃないでしょう、冷静な、落ちついた人だという評判だから」

「でも、また半面には熱情家でもあったんですの。だからこそ宮本夫人ともああした関係に陥ちたんではございますまいか?」

「それはそうかも知れないんだけど、自殺とすれば他にもっと重大な問題が必ずあると思いますね。例えば外交上の失敗だとか、秘密書類をどうかしたとか、また本省の意見なり命令なりに無理がある場合、それを承知で横車を押さなければならない場合もあるでしょう。そんな時いつも貧乏籤をひくのは外交官ですわね。