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じょうき

情鬼

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页

青空文庫

「じゃやっぱりあの人が犯人なんでございますか?」私は内心いささか得意だった。

二人は大森のBホテルの玄関で車を乗り捨てた。そして夫人は私を入口に待せたまま受付の中へ入って行った。

やや少時すると戻って来て、こんどは玄関とは反対の裏口から庭へ廻った。日はすっかり暮れてしまって四辺はもう暗かった。大きな番犬がどこからか出て来て、迂散臭そうに二人の後をついて来る。二人は植込みを抜けて広い芝生の上を歩いた。芝生は露に濡れていて、着物の裾がしめっぽくしっとりとなった。

私は夫人のうしろに従って足音を忍ばせながら、建物の一番端れの方へと近づいて行った。そこの庭に面した一つの窓にはまだブラインドが下してなかった。しかも電気がついているので室内は一目でよく見えた。長椅子、安楽椅子、壁掛まで全部同色の鼠色で、寄木細工の床の上には処々にペルシャ絨氈が敷いてある。あるものは正方形に輝き、あるものは細長くあたかも蛇の背のように冷めたく光っている。光線の加減だろうか、硝子越しに見るせいだろうか、部屋全体の感じがまるで水の中のように思われた。

次の室へ通ずる扉が半開きになっていて、どこからさし込むか、月の光が蒼白く照らしている。