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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页
それなら挨拶に上ろうじゃないかと、萩原の返事も聞かないで、先刻、詩碑の前を素通りにしたお詫びかたがた、夫人を訪ねようと果物籠を町で用意して出掛けた。
暮鳥夫人はよくふとって健康そうであり、私は挨拶の言葉をくり返している間も、萩原朔太郎は黙って立ん坊をし、笑いさえすれば礼儀にかなうように始終にこにこしていた。面倒な事や日常の礼節の行事を避けている萩原は、お愛想らしいことも言わずに外に出て了った。併し旧友の夫人を旅行中に訪ねたということが、萩原を機嫌好くし、感慨もまた一入清純のように見受けた。
萩原と私が水戸の停車場の歩廊に立っていると、一人の少女が前に来て親しそうにお時儀をし、わたくしは山村の娘でございますが、今日お立ちのことをうかがって、ちょっとでも、ご挨拶がしたくて参りました。これはほんのおしるしですがと言い、水戸の名産を二折、一つは萩原様にというふうに言われ、私はこの伶子さんという暮鳥令嬢に、ペコペコ頭を下げた。恰度、彼女のうしろにもう一人少女が立っていて、これが妹ですといわれ、私は二人の旧友のお嬢さんを見て、暮鳥死して珠ありという瞬間の感慨を、永い間忘られなかった。