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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页
老大家の小説作家としての彼を見ていた眼には、ああいう老大家もくちばしの黄ろい囀りを敢えて行うていたかと、見直したときには詩人としての藤村山嶽には、前山とも見られる幾多の美しい若木で飾られた麓山を四顧したものであった。
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
(中略)
林檎畠の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
昭和十二年外遊から帰朝した藤村は、出版記念会や集会宴席には一さい出席しないでいた。健康がすぐれないためと、人に会うことの煩瑣を避けるためであった。止むをえない会合には、その招きの封筒を静子夫人に、朝の郵便物を読み分けながら手渡して言った。
「あんた、この会に出てくれるか、席を外すわけに行かないからね。」
静子夫人はその通知の葉書を読んだ。
「ええ、参ります。」
「代って顔だけ出してくれればいいんだから、卓上演説がほぼ済んだ頃に、席を抜けてくれればいい。」
「え、そういたしますわ。」
「宴会には隙間みたいなものがあるから、その隙間にそっと眼立たぬように椅子に音をさせないで、うしろの方にすべり出るようにするんだね。