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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页

青空文庫

」

夫人はたびたびの代理で、その隙間を知っていたので笑って答えた。

「お下にゆくふりをして立つんでございましょう。」

「皆の注意が散漫になっている時は分らないもんだ。お下に行くふりが一等わからないね。出たらすぐくるまでお帰り。これがくるま代。」

「え、じゃ行ってまいります。そうね、八時にはちゃんと帰るわ。夕食のお仕度はもう出来ていますから。」

静子夫人は大概の場合殆ど一人で、宴席の作家達からはなれて、近く寄ってくる人に程よく品のある挨拶をして立っていた。ほそれた形のよいなりふりと、上気したすべっこい顔のなかには藤村の愛する血色が、この人のりこうな勝気な瞳を掻き立てて、私はいつも遠くからこの美しい年増さんをながめていた。ただ見ているだけで一度も彼女のそばに行って、挨拶をしたことがなかった。一度挨拶がおくれると、宴席では人眼もあってなかなか近寄って、無邪気に挨拶ができないものであった。それに好みからいえば静子夫人は私にも好ましい婦人であり、藤村のように大きい仕事を次から計画的に書いて行って、それが年月の関係でひとりで組み立てられて行くことが、老作家の晩年をどれだけ生きるうえに働きかけるかが私には羨ましかった。