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おうぎの

扇野

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页

青空文庫

栄三郎は口をつぐんだ。

「どっちでもいいが、あの二人とは会わないようにするんだな、あまり出歩かないほうがいい、ここは土地が狭いし、それに、――」と孝之介は一種の表情で栄三郎を見た、「襖絵のほうも競争者が出ることになったからね」

栄三郎は相手を見あげた。

「そうなんだ」と孝之介は頷いた、「これは角屋にはないしょだがね、私の父が家老職という責任上、一人の絵師にだけ任せておくわけにはいかないというんだ、それでもう一人、土佐派の絵師で、――名は云えないけれども、父が古くから知っている者があるので、それにも頼むことになったのだ」

「そういうことなら」と栄三郎は云った、「私は辞退することにします」

「自信がないというわけか」

「不愉快だからです」

「そうはいかないんだ」と孝之介は首を振った、「もう一人の絵師に頼んだのは念のためで、正式の揮毫者はやはり其許だからね、このことを角屋に話さないのは、角屋が其許に遠慮して、なにか奔走しはしないかと思われるからだ、其許の絵をまもるためにね」

「たとえば、どういうふうにです」

「どういうふうにでもさ、――角屋は富豪だし、金のちからは大きいからね」