轻松读懂日语经典作品
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おうぎの
扇野
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页
栄三郎はおけいの眼の色にも、顔を染めたことにも気がつかなかった。彼には石川孝之介がにわかに道化てみえ、石川孝之介のためにいきまいた自分が、いくらか恥ずかしくさえなった。
「しかしあの娘は、よくあれに気がついたものだな」彼は独りで呟いた、「おれ自身が不満に思っていたちょうど同じ位置に、……そのうえおつるを呼んで遊べと云ったことも、偶然だろうけれどぴったり当った、きっとそんな勘のいいところがあるんだな」
筆は順調に進みはじめた。
朝は未明に起き、夕方は昏れかかるまで、食事のほかは殆んど立つこともなく描き続けた。食事は三度とも握り飯で、やっぱりそれまでのようにおけいが運んで来た、長四帖まで来て声をかけ、(済んだのとひき替えに)持って来たほうを置いて、そこから引返してゆくのであった。――けれども四五日すると、彼は夕食のときに酒を飲むようになった。酒を飲んで酔わなければ、おつるとの約束が守れそうもなくなってきたのである。日が昏れて、広い庭のかなたに街の灯が見えはじめるとまるで熱病のように心が渇き、おつるに逢いたいという衝動で、いても立ってもいられなくなる。