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しんたからじま

新宝島

江戸川 乱歩

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1940(昭和15)年4月~1941(昭和16)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,590 字 · 197 页

青空文庫

しかし、一郎君はその熱ささえも感じませんでした。

目の前には、ただ一枚の板が、――三人の命の板ともいえる一枚の板があるばかりです。一郎君の二本の腕は、まるで鉄でつくった機械のように、その板で水を掻きつづけました。もう人間わざとは考えられません。一郎少年のからだには、何かが乗り移っているようです。

おお、ごらんなさい。非常な早さで流されている筏が、少しずつ少しずつ洞窟の左側へ向きをかえて行くではありませんか。うまいうまい、この調子なら、筏が火の柱を通りすぎる時には、洞窟のすみの一番安全な所を流れるにちがいありません。ああ、少年たちは助るかも知れません。

一郎君は何も見えませんでした。ただもう機械のように板を動かしていました。しかし、筏は火の柱から十メートルほどにせまっていたのです。

その時、かわいそうなことが起りました。

例の眼鏡猿と鸚鵡とは、いつの間にか、抱かれていた保君の手をはなれていたのですが、怖わさのあまり、けたたましい鳴声を立てて、死にもの狂いに飛びまわるものですから、とうとう二匹とも、くくってあった紐がとけてしまったのです。

紐がとけると同時に、眼鏡猿は流の中へ身をおどらせ、鸚鵡はパッとまいあがって、何と思ったのか、火の柱を目がけてとびこんでいったのです。