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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

そのため、山にくわしい道案内者を求めて、軍の先頭に立たせてまで来たわけだが、時は九月、山地は殊に霧がふかく、いかんせん山案内の小兵衛からして、折々、岐路に立っては、

「はてな……?」

と、咫尺もわかぬ霧の中に、首をかしげる始末だった。

霧の錯覚は怖ろしい。

ひとりの場合も、大勢の場合も、そのため、あらぬ不安にさまよい、精神の消耗につかれることには変りがない。

いや、ひとりは、かえって、始末もよいが、作戦目的をもつ二万余の兵馬となると、行動の一致すら難しかった。

「おおーいっ」

「おうう……い」

隊伍と隊伍は、たがいに呼び交わしながら、遅々として、山路を越えていった。

「荷駄隊を、落伍さすな。――大荷駄は、たえず、貝を吹いて、貝に答えよ。また先鋒隊は、離れすぎて、道を過るな」

中軍の佐々成政は、たえずこう気を配りながら、前後へ、伝令をとらせていたが、ともすれば、その中軍はおろか、左右、わずかを隔てて旗本たちの姿まで、まっ白な、濃霧にくるまれて、しばしはまつ毛も、水粒にふさがれ、立ち淀むしかないような困惑に陥ちた。

そんな時、かれはかならず、道案内の小兵衛の名を呼びぬいた。