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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
――光秀にとってもまさにここは本陣そのまま前衛であり、秀吉も自身剣光戟風のあいだに馬を進めているので、いわば主力と主力の真の決戦は、ここにおいて定まるものと観るべきである。
思い出されるのは、秀吉が、さきに僧形の施薬院をして、下鳥羽にある光秀の陣を訪わせ、
(毎度、合戦はしておるが、まだ大将と大将との、直の太刀打ちはしたことがない。このたびは主の讐たる敵の討伐に向うのであるから、三日のうちに攻めのぼって、光秀と直の太刀打ちをいたすであろう。そう伝言しておいてくれ)
と、施薬院の口から光秀へ通じておいたことばである。きょうの秀吉の進撃ぶりを見れば、その予告は決して一場の戯れでも恫喝でもなかったことが今思い当る。彼は本気に光秀と直の太刀打ちをせんと望んでいる血相だった。しかし馬前馬側の旗本たちとしては、甘んじて彼にその先駆を誇らせてはおかないことはいうまでもない。
川角太閤記が誌すところの記述――
秀吉ガ御馬ノ先手衆、鑓合セ申スト等シク、日向守ガ備ヘヲバ突キ崩サレ、一町バカリ引退ク処ヘ、又々、敵ノ先手詰カケ候ヘバ、秀吉、味方若シヤ押掛ラレ可クヤト思シ召ケム、味方ノ鑓ノ石突モ働カザル程、御馬印ノ瓢ヲ御詰カケナサレ、ソレヨリ又敵ヲ突キ立テラル