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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

一痕の月を凝視することしばしであった。その月よりも青い死色がみるまに面上へ漲って来たとき、ふしぎにも少しの紊れもない小声で、光秀は、偈のあとを、こうつづけた。

大道ハ心源ニ徹ス

五十五年ノ夢

覚メ来レバ一元ニ帰ス

茂朝は筆を投げて哭いた。

とたんに、光秀はわれとわが喉を短刀で掻き切っていた。

愕いて駈け戻って来た進士作左衛門や比田則家も、その体を見ると、

「いまは」

と、主人の屍に寄り添って、各※(二の字点、1-2-22)、自己の刃に伏した。――なお四人、六人、八人と、数を加えて、同じように光秀の死骸を繞って殉じた人たちの亡骸は、またたくうちに大きな一箇の血の花弁と花心を地上に描いた。

さきに大竹藪へ駈け入った堀与次郎と、一、二の者は、土民の群れと戦って、斬り死にして果てたものか、村越三十郎が闇へ向って、

「与次郎、戻れッ。与次郎、与次郎ッ」

と、いくら呼ばわっても、ふたたび帰って来なかった。

その三十郎も傷を負ったので、竹林の中をよろ這いよろ這い帰って来ると、すぐ側を摺り抜けて通る人影があった。

「あッ。茂朝どの」

「三十郎か」

「お館はいかが遊ばしました」

「御最期だ」