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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

なしぶきを揚げた。

「怯むな、怯むな」

なおそこへ、長い棟木だの、床板だのは、絶え間なく運ばれて来る。一歩一歩、決死の修理をつづけて、味方の突撃路は作られてゆく。

屍は橋上を埋め、血は橋桁からしたたって、瀬田の流れを紅くした。

対岸の敵勢もなかなか重厚らしい。銃手が弾ごめに時を移している間には、弓隊が矢風矢唸りをたてて、これまた凄まじい鏃の数を射て来るのだった。

この一軍は、事変の初めから反明智態度をあきらかに示していた瀬田の城主山岡景隆の全家中と、さきに山崎から急派されていた堀秀政の先鋒の一隊である。きのう以来の勝ちいくさに続いて、光秀以下、敵の一族諸将の終りも聞き知って、いまや意気の昂りぬいている軍勢であるから、その矢弾といい、喊声といい、ほとんど、左馬介光春の率いる一千余の兵力の如きは、主を失って路頭に迷う敗残のあわれなる群を揶揄するような概でしかなかった。

「明智の者どもよ、まだ聞き及ばないのか」

「山崎の総敗軍を知らずに、ここを通ろうとするのか、知って通ろうとするのか」

「日向守光秀さえ、昨夜、小栗栖で相果てているぞよ」

「土民の竹槍で」

「悪因悪果の見せしめを身に示して」