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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
官兵衛は側へ寄ってゆり起した。
「殿。夜が明けておりまする」
秀吉は鼾をやめた。
「……明けたか」
と、むくむく起きて、すぐ恵瓊との会見のもようを聞き取り、ちょっと難しい顔つきをしたが、すぐ起ち上がって、
「飯のしたく」
と、いいつけ、一目散に廊下へ出て行った。
厠であった。小姓たちは湯殿口のわきに、洗顔の水をたたえて待っていた。
「飯をくうとすぐ陣廻りに出るぞ。平常のとおり馬を曳き出し、供の者を揃えておけ」
顔を拭きながらの命令である。朝飯は忽ちにすました。桜若葉の山門から彼はもう金瓢の馬じるしと朱の大傘をかざさせて、ゆらゆら麓へ馬を打たせている。
彼の日課である陣廻りには、もとより規定の時刻はない。しかし常になく早朝だったことは珍しい。彼は日頃よりも機嫌もうるわしく、折々、剽気た戯れなど云いながら悠々各陣地を視てあるいた。
やがて帰り途にかかると、
「筆を持て」
と、祐筆をそばへ呼び、
「――狂歌を一首思いうかべた。認めて毛利の陣所へ持たせてつかわせ」
と、いった。
そして馬上から自作の狂詠を供の人々に聞えるような声で誦した。祐筆はそれを懐紙に書いた。
両川が一つになつて流るれば